未来経済ラボ

新しい経済で生きる実験の記録です

#125 バークリーで得られるもの、得られないもの

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12週間サマープログラムを受けて感じたことについて整理してみます。当プログラムはバークリーの1学期目を受講するだけのもので、私は卒業まで在籍した訳ではありませんが、その範囲で感じた、バークリーで得られるもの、得られないものについて綴ることにします。

得られるもの

知識・スキル

イヤートレーニングやハーモニーをはじめ、全体的にカリキュラムはよくできていると思いました。音楽のバックグラウンドが全くなくても、4年間このカリキュラムを真面目にこなせば、かなりの知識・スキルが身につくと思いました。音楽を本格的に学びたければバークリー、というのはやはり正しい選択だと言えます。

 

ただ、カリキュラムはバークリーの学生であれば全員が受講するものなので、他の学生との差別化を図りたいのであれば自分でより発展的な内容を学んだりする姿勢も必要です。

 

実技スキルについては、授業カレンダーを見ても分かるとおり授業内における演奏のチャンスはそれほど多くありません。なので、上手になりたければ個人練習はもちろん、登録外のアンサンブルのクラスにも参加したり、放課後に友人とセッションしたり、ギグに出たり、どんどん演奏のチャンスを掴まないといけません。行動力がものをいいます

 

得られるもの

ネットワーク

やはりバークリーの知名度はすごいです。世界中から素晴らしい先生、学生が集まってきており、彼らと知り合うのはバークリーだからこそできること。あの高い授業料は、授業そのものよりもむしろこのためなんじゃないかとすら思います。なので、どんどん積極的に絡むといいです。英語がダメでもバークリーは寛容なので勉強はある程度なんとかなるけれど、この点においてはやっぱり英語ができないほど損だと確信しています。特に日本人はその国民性からか、日本人同士で固まる傾向が強いので、意識的に群れから離れる癖をつけた方がいいかもしれません。

 

得られないもの

キャリアとしての成功の保証です。エンジニアや作曲家などのキャリアについては詳しくないので割愛しますが、特に演奏家を目指している人は、自分の立ち位置について常に敏感になっておくべきだと思います。有名大学を卒業したからと言ってその後の成功が保証されるわけではないのは当然ですが、それはバークリーについても真であると自信を持って言えます。バークリーを卒業しても生活に苦労しながらミュージシャンをしている人を直接知っていますし、同じような話もたびたび聞きます。

 

噂に聞いたところでは、かの小曽根真さんは入学時に、アンサンブルクラスの最高レベル7でも収まらないほど上手く、学校側にレベル8を作らせてしまったほどのレベルだったといいます。音楽一本で生計を立てたければ入学時にそのレベルまで到達していなければならない、というわけではもちろんないのですが、自分の立ち位置を知るには参考になる情報だと思います。

 

もちろん、私は女性だから自分一人だけ食べられればいい、とか、音楽さえ続けられれば結婚できなくてもいい、とか、人によっていろんな価値観があると思います。だからミュージシャンになることをいたずらに牽制しているわけではないのですが、結婚して家族も持ちたかったのに、こんなはずじゃなかった、とならないように、シビアに自分の価値観を見つめられる冷静さが必要です。

 

昨今、"Spotify"などの台頭をはじめ、音楽ビジネス自体がどんどんお金にならなくなってきています。また、演奏家として社会的にも経済的にも成功できるのはほんの一握りの人です。音楽の素晴らしさについては議論の余地はないけれど、音楽にはその素晴らしさゆえに人を狂わせてしまう力すらあると感じています。残酷なようだけど、自分のお給料を決めるのは努力でも熱意でもなんでもなくあくまで需給バランスや他人の評価です。なのでここはちょっと引いた視点で自分と周囲を観察して、テクノロジーの進歩をはじめ世の中の動きをよく見ながら、自分の時間、お金、エネルギーをどんな活動に割り当てて行くのかを決めていくクレバーさが求められます。音楽に限った話ではないけれど。

 

大切なのは音楽を心の底から楽しみながら続けること、であって、音楽で稼ぐことではない、ということに気付くことができた好きなことをすることと稼ぐことを分けて考えられるようになった。これが個人的には一番の収穫でした。

 

キャリア論については個人的な関心事でもあるので、追ってまた記事を書きたいと思います。